1. MMLとはなにか?
MMLは、異なる医療機関(電子カルテシステム)の間で、診療データを正しく交換する為に考えられた規格です。
データベースは、一種の表(テーブル)の様なものと考えることが出来ます。各々の施設では、独自の定義のテーブルを運用しています。従って、たとえば、住所、氏名、病名、、、の様な簡単なデータセットを交換する場合を考えても、施設間でデータの出現順序が違う可能性があります。これをそのまま転送すると、当然データの順序が入れ変わってしまいます。データ互換をはかるため、全ての医療システムのデータベースを同じ構造にする方法が考えられますが、これは事実上不可能です。すでに全国で動いている多数のシステムを全て書き直す必要があるからです。そこで私達が検討して来たのが、データ交換のための標準フォーマット(MML:Medical MarkupLanguage)です。最新バージョンのMMLはXML技術を用いて開発されています。
この考え方は、多数の電子カルテシステムの多様性を保証した上で、他の施設とのデータ交換の際、MML文書(XMLインスタンス)に変換して送出します(図1)。受け取った側は、MML文書化されたデータを、自施設のシステムに合った形式(順序)に変換してデータベースに格納します(データベースへのマッピング)。こうすることによって、施設毎の独自性を保ちながら、全国の医療機関とデータの交換が可能になります。各々のシステムは各ベンダーが競争して作ることになりますから、競争の原理が働き、より使いやすいシステムが生まれることでしょう。
図1 マークアップ言語を使ったデータの交換この方式のもう一つのメリットは、各システムが、MMLに対するインターフェイスを一つだけ持てば良いということです(図2)。もし、個々のシステム間で交換のためのインターフェイスを作ることになると、膨大な数の組み合わせが発生し、これは事実上不可能なことです。
1995年5月に宮崎で開かれたSeagaiaMeeting(日本医療情報学会電子カルテ研究会年次総会)で、MMLの最初のアイデアが生まれ、その後、SGMLを用いた方法が検討されてきました。そのSGML(StandardGeneralized MarkupLanguage)を使ったデータ交換方式は、1996年度からスタートした厚生省電子カルテ開発プロジェクトの研究グループ(電子カルテ研究会のメンバーで構成される)に継承され発展し、現在、電子カルテ研究会の中のMMLworking groupが中心となって開発を継続しています。
MMLは、Web page記述言語であるHTML(Hyper Text MarkupLanguage)とよく似た記述方法を用いています。一般的に、この様な記述方法を「タグ付言語(markuplanguage)」と呼びます。HTMLのタグは、<center>、<H1>、<p>(各々、文字をセンタリング、ヘッダ1、パラグラフ、の意味)などの様に、主として文字をレイアウトするための書式情報で成り立っています。医療情報をこのHTMLで送ることは簡単ですが、あくまでも「人間が見る」ことを前提とします。つまり、
<left>鈴木一郎</left><p>
<left>胃癌</left><p>
というHTML化された情報が相手に送られた場合、
鈴木一郎
胃癌
の様に左詰めで表示されます。これを人間が見た場合は、表示された情報が氏名と病名ということは容易にわかります。しかし、コンピュータが理解して、正しく病名と氏名を自分のシステムのデータベースに格納(マッピング)するためには、
<name>鈴木一郎</name>
<diagnosis>胃癌</diagnosis>
の様に、医学的な意味を明示するタグを用いたほうが処理しやすいわけです。この例で使った<name>、<diagnosis>などのタグを使って、医療情報を伝える技術、これがMMLです。私達は、カルテの論理的な構造を検討し、その中で使用される医学概念(病名、症状、など)をくまなく洗い出し、それらを医学的意味を表わすTagとして定義しました。これにより、SGMLを用いて文書型定義(DTD:Document TypeDefinition)を作ることが出来ます。文書型定義は、SGML文書の構造や出現するタグの定義するための定義体です。MMLは、このSGMLのDTDに他ならないのです。施設間でデータを交換する場合、MML文書(広い意味でのSGML文書)に変換して送ってやれば、正しく医療情報を伝えることが出来るのです。
バージョン2.2.1からは、MMLはSGMLの発展型であるXML(eXtensible MarkupLanguage)で記述されるようになりました。これは、医療情報の交換が主としてデータベース同士で行われることを考慮して、データベースとの親和性の高いXML技術を採用することにしたからです。現在、世界は、データ交換の標準技術としてXMLを採用する方向に動いており、この選択は正しかったと考えています。
2. MML最新バージョン
最新バージョン2.2.1は、基本的にはSGMLで作られていた過去のバージョンの考え方を踏襲していますが、今回完全にXMLに変更されました。また、過去のバージョンとは、以下の点で異なります。
MML part 1
1)NameSpacesを用いて、構造を分割(部品化)した。これにより、専門分野別のモジュールなどを個別に開発可能となり、バージョンアップの際、全体に対する影響を最小限に押さえることが可能となった。
・くり返し出現する構造の部品化
・意味的に分離可能なセクションの部品化(モジュール)
2)手術記録モジュールの追加
3)臨床サマリモジュールの詳細化
MML part 2:
検索、追加、削除などの電文関連の文法(案)を定義した。
以上の変更によって、MMLは下図に示すFrame的な構造(白色ブロック)と、その中で使われるモジュール(青色ブロック)に分かれます。実際の運用では、モジュール(subDTD)が必要に応じて使われることになります。現時点ではここで定義したモジュール群までがMMLの責任範囲となりますが、将来、ユーザーの要求に応じて追加される可能性を否定するものではありません。
3. MMLで何が出来るのか?
MMLは、診療データ交換のための規格として作られました。これを用いて、以下のような応用が考えられます。
3.1 異なるシステム間での診療データ交換
データベース構造の異なる電子カルテ同士でのデータ交換は、単純な方法では不可能です。通常、特定の相手を決めて、互いに互換を取るためのインターフェイスを作ります。しかし、そのインターフェイスは、他の医療機関とのデータ交換には役にたちません。そこで、各システムがMMLインターフェイスを装備し、交換の際にMML文書の形にして相手に情報を送ると、MMLインターフェイスがこれを解析し、自システムのデータベースにデータを取り込みます。医療スタッフは、使い慣れた自施設の電子カルテシステムでデータを参照することが出来ます。
3.2 施設内部でのデータバックアップ(長期保存系電子カルテ)
電子カルテシステムは、その内部にオーダー情報や、医事関連情報など、膨大なデータを保有しますが、医療データの他に、運用の都合上の様々な雑多なデータ(様々なフラグや、履歴情報など)も含み、純粋に医療データのみを持つというわけにはいきません。その結果、データを長期的に持つことが難しくなります。そこで、変更の可能性のある予約情報などのアクティブなデータと、変更する必要のないフィックスしたデータに分けて取り扱います。既にフィックスしたデータをMML形式で書き出し、別系統のデータベースに効率良く保管します。こうすることによって、診療データの効率的な長期保存が可能になります(図4)。これは、将来、ベンダーの変更が起こった場合にも非常に有効で、新しいベンダーのシステムにMMLインターフェイスを装備すれば、長期系データベースから新らしい電子カルテシステムに診療データを書き戻すことが可能になります。宮崎医科大学では、この方式による長期保存系診療データベースを2000年に稼動の予定です。このデータベースはMMLインターフェイスを装備していますので、他のシステムとのデータ交換に際して特別な仕掛けを開発する必要がないというメリットもあります。
3.3 地域医療機関の共同利用データベース
理想的には、地域の各医療機関が運用する電子カルテにMMLインターフェイスを装備し、お互いにデータを交換可能にすることだと思われますが、インターネット等のインフラの力不足、常時接続への経済的問題、診療所などでは、本格的な電子カルテシステムの維持運営が困難、など、現状では実現困難な状況です。そこで、地域医療機関が共同で利用するMML対応のデータベースを準備し、このデータベースにMML文書を各医療機関が送るようにします。このデータベースを、会員となった医療機関や患者さんが共同利用することによって、データの共有が実現します。各医療機関のシステムは異なったものでも良く、各々MMLインターフェイスを装備することが前提となります。特別な電子カルテシステムを持たない個人開業医や患者さんは、通常のパソコンで共同利用データベースに装備されたWWWインターフェイスにアクセスし、WWWブラウザでカルテを参照することが可能です。
この方式は、1998年度より宮崎県において実験が開始されており、すでに3つの県立病院、大学病院、診療所など、9の医療機関が接続を完了しています。これらの医療機関はVPN(仮想プライベートネットワーク:Virtual PrivateNetwork)で結ばれており、安全な環境で情報交換を行っています(図5)。
3.4 リモートバックアップと診療データの真正性証明
前項で述べた方式は、医療機関にとっては、大切なデータのリモートバックアップとしても機能します。また、共同利用データベースを、信頼性のおける第三者機関が運営すれば、診療データの真正性(改ざんされていない、などの法的担保)を証明することが可能で、その法的担保性は、より説得力を持つことになります。近い将来、単なる回線プロバイダではなく、医療コンテンツを取り扱う「メディカルデータバンク」を業務とするサービスが出現する可能性も考えられます。
4. 参考情報:より詳しく知りたい人のために
1) MML2.2.1規格書/1999.09
http://www.seagaia.org/mml221
Seagaia Meetingホームページ(MMLに関する最新情報など)
http://www.seagaia.org<span style=”font-family: Osaka;”>/</span>
3) MMLに関する問い合わせ先
電子メイル:sg-office@seagaia.org
4) Seagaia Mailing list:seagaia-ml@seagaia.org
電子カルテ研究会/SeagaiaMeetingでは,電子カルテの普及,相互理解のためにメーリングリストを運営しています.自由に参加出来ますので,興味のある方は,是非この機会に登録下さい.
メイリングリスト登録申し込み先:
toiawase@medxml.net
5) MML開発に関する過去の資料
厚生省電子カルテ開発事業カルテ構造技術コアチーム報告書/1996.4.12
http://www.miyazaki-med.ac.jp/medinfo/SGmeeting/document/health/health_00.html
MML ver.1.0 β3(日本医療情報学会電子カルテ研究会)/1997.05
http://www.miyazaki-med.ac.jp/medinfo/SGmeeting/document/SG97/02Ohe/ohe.html
MML Version 2.0(日本医療情報学会電子カルテ研究会MML WorkingGroup)1999.03
http://www.miyazaki-med.ac.jp/medinfo/SGmeeting/SGmeeting99/doc/MMLV2/MML_v2.html
MML 2.0規格/1999.03
http://www.miyazaki-med.ac.jp/mmlv2/index.htm
おわりに
以上、MMLの概要を御説明しまた。MMLに代表されるXML技術が普及し、患者さんにとって、より快適な医療サービスが実現することを願っています。(執筆:1999.10.22 電子カルテ研究会MML-WG 吉原博幸)